赤トンボで特攻 宮古島から出撃 第三龍虎隊⑤

戦闘機は時速六百キロで飛ぶが、赤トンボは時速二百十キロ、わずか三百馬力しかない。通常三十キロ爆弾二基搭載の貧弱な航空機に二十五番と呼ばれる二百五十キロ爆弾を抱え、敵軍まっただ中の沖縄本島海域の米艦隊を攻撃するという無謀極まる作戦であった。

赤トンボと呼ばれた九三式中間練習機(カラー化)

 目の前にあるのは専攻した艦上爆撃機(艦爆)でもなく暗緑色に塗り直した「赤トンボ」である。こんな練習機で俺たちに死ねというのか。龍虎隊隊員の偽らざる心境だっただろう。

こんな練習機で飛べというのか

 艦爆は前席が偵察員の指示に従い行動する操縦員、後席の偵察員が機長で航路の指示や基地との無線連絡をする二人乗りである。爆弾も魚雷も搭載可能で、水平飛行から爆弾や魚雷を投下する艦上攻撃機(艦攻)に対し、艦爆は急降下しながら小型爆弾を投下する。台湾の基地からも沖縄周辺に向け、九九艦爆や九七艦攻が特攻出撃したが、いまや特攻最前線の虎尾基地には赤トンボが並んでいるだけだった。

 だれもが大型機の艦爆から幼なじみのような赤トンボに戻り、拍子抜けしたようだが、か弱い練習機での特攻は高度の技術が必要だった。

 毎日のごとくロッキードP38の銃撃の後、B29が飛来するため、訓練は昼間を避け、夜間に行われた。燃料不足で時間がかかる一機ごとに離陸する単機離陸ではなく、危険性が高い編隊離陸が行われ、離陸後の編隊散開直後に空中で衝突する事故も頻発した。

 編隊離陸後、高度一二〇〇メートルで編隊を解き、指揮所の横に設置されたカンテラに向かい、一機ずつ三十五度から四十五度で急降下する。最初は六番と呼ばれる六十キロ爆弾を二発搭載し、次に二十五番といわれる二百五十キロ爆弾を積んだ。重量を増した赤トンボはフルスロットルでもノロノロと滑走路を滑り、滑走路もなくなり木立が近づいた時、ようやくゆるゆると浮き上がる有様だった。小さな風船にビール瓶をぶら下げて浮き上がらせるようなものと表現された。

宮古島に移動する前、台湾での第三龍虎隊 左から5人目が三上隊長(カラー化)

 飛行安定性と行動力は極度に低下、エンジンは過熱し、横滑りすると、両翼が大きく揺れ、機体がきしみ失速。離陸も難関だが、重量オーバーの機体を安定させての夜間着陸は他の実践機とは比べようもなく難易度が高い。角度を極端に浅くし、前輪を抱え込むようにして慎重に着陸しなければ赤トンボが逆立ちしそうになった。基本の翼にある二つの脚と胴体後ろの尾輪が同時に地面につく三点着陸など論外であった。

 偵察機「彩雲」が撮影した航空写真による目標の確認も行われた。千隻近い大小の米艦艇が沖縄本島を取り囲むように浮かぶ。黒い無数の点が沖縄という餌食に群がる虫のように見える。海軍で最小・再軽量の航空機で万全に思える包囲網をかいくぐり、接敵が可能とは到底考えられなかった。

 それでも第三龍虎隊は飛ぶしかない。航空機の能力を補うものは訓練と勘である。だからこそ、三上隊長は日記の最後に「最初から最後まで乗っているのもきつい。夜間飛行は命懸けだ」と書いた。敵の電探を避け低空飛行で接近、敵艦艇を確認すれば最後の力を振り絞り高度を上げ、一気に急降下で突入する。体当たりの目標を定める照門を風防ガラス正面に取り付け、前方のエンジンカバーの上に照星を立てる。日増しに体当たり技術は上がる。しかし、いくら腕が良くとも敵の激しい砲撃をかいくぐり、赤トンボで米空母を撃沈できるとは思えるはずもない。操縦している本人も周囲も承知していただろう。それでも厳しい訓練は続けられた。

第一、第二龍虎隊 作戦中止 それでも出撃のとき

 第一、第二龍虎隊は不時着し、作戦中止となり、全員が生還している。一縷の望みはあるかもしれない。考えた隊員もいただろうが、隊長の三上飛曹にそんな心積もりは微塵も感じられない。部下七名の運命を預かる隊長に任ぜられ、急速に剛毅な男に成長しているように感じられる。そこには「まだ生きて居ます」と書き送った三上弘上飛曹の姿はなかった。

 出撃前日までに故郷に送る物の整理をし、官品も還納し終えると海軍からの借り物は特攻機と飛行服、飛行帽、飛行靴だけとなる。ついに第三龍虎隊が虎尾基地を出撃するときが来た。

宮古島のある慰霊碑 背を丸め深く倒せし操縦桿

 背を丸め深く倒せし操縦桿

     千万無量の思い今絶つ

     神風特別攻撃隊第三次龍虎隊

 建碑の由来

 

 もう何も思うまい、何も思うまいと思うほどこみ上げる父母への思慕、故郷の山河。

 今生の別れの瞼にうかぶ、月影淡く、孤独を伴に、無量の思いを抱き、唯ひたすら沖縄へ、この胸中いかにとやせん、ああ壮絶の死、真に痛恨の極みなり

 一九四五年七月二十九日夜半

 神風特別攻撃隊第三次龍虎隊

 上飛曹 三村弘

 一飛曹 庵 民男

  同  近藤清忠

  同  原  優

  同  佐原正二郎

  同  松田昇三

  同  川平 誠

 義烈七勇士は、日本最後の特攻隊として、世界恒久の平和を念じつつ、ここ宮古島特攻前線基地を離陸。沖縄嘉手納沖に壮烈特攻散華す。その武勇萬世に燦たり。願はくば御霊安らかに眠られよ。父母のみむねに。

 神風特別攻撃隊龍虎隊一同

 一九九五年七月二十九日 

     神風特攻第四次龍虎隊員 

     滋賀県水口 笹井敬三建之

宮古島の慰霊碑
第三龍虎隊の後に出撃する予定だった笹井敬三氏の碑文
宮古島にある戦没者慰霊碑

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赤トンボで特攻 宮古島から出撃 第三龍虎隊⑤” に対して6件のコメントがあります。

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