沖縄戦終結後 赤トンボで特攻戦死 日記「年21ともなれば愛もあり恋もある」三村弘上飛曹 第三龍虎隊③

沖縄戦が終結した昭和20年7月29日に赤トンボと呼ばれた練習機で出撃した三村弘上飛曹が戦死する前、遺書と日記が残っている。

海軍上飛曹 三村弘 昭和二十年七月二十九日、沖縄・宮古島を出撃し、沖縄周辺にて戦死 岡山 予備練習生十四期 神風特別攻撃隊第三龍虎隊 二十歳

 五月十六日 晴 

軍人として女々しいとは思ったが…

赤トンボと呼ばれた練習機

 

 私が又此處に筆を執った、何のためか?軍人として女々しいとは思ったが……退屈なためであったかも知れない。

 それは幼な友達だった克子さんとの思い出を綴って見たかったからだ。

 假入隊してこの二、三日、官舎に移ってからは、暇なものだから、各々が秘蔵の好い人の写真を出して、うわさばかりしていた。従って私も小さい頃の思い出をよく戦友と共に語ったものだった。

 その語るところの人は決まって彼女、克子さんのことだった。克子さん、その人がどすして口をついて戦友に語らせるか、彼女こそ友にはなして恥ずかしくないと自分で思ふからである。彼女を知ったのは高等科一年のころからだった。

 好いた女はどんな者でも綺麗に見えるとよく云うが、決して彼女ばかりは私ばかりがよく見える女ではなかった。夏の朝のような清々しい感じのする人だった。

 成績も抜群で何時も級長をやっていた。当時の私としては、その頃よく小説にあった様なものは全然考えてもいなかった。又年が年でもあったし、ただ好きな人と云う感じだけでだったと思う。

 農村の者は純朴だった。農民としても確固たる家庭での教育が純な心を育てたのかも知れない。私と彼女との間にも厳たる男女間の区別がある。その境界はお互いの間にはなすことすら許さなかった。農専の一年頃よりお互いの間はすこしづつその間を深めていった。とは云うものの純然たる間は、町の中学生に見る様な態度は決してとっていなかった。

 眼と眼はお互いの好意を示すのに充分だった。彼女の好意は身に沁みて私に感じられた。私が気分の悪いような顔色をしている時は彼女も心配そうに私を見ていた。

 そうした克子さんと別れたのは農専二年の一月とおぼえている。その前、何かの会があって、一緒に席をしたことがある。うすうすと別離を感じていたのであったが、会の終わりで〝暁に祈る〟を合唱した時、私は灼ける様な彼女の視線を左頬に感じて孤独の兆しをあわく感じたのだった。それ以来、会わずに彼女が広島に希望を抱いて去って行った。

 

 

忘れているかもしれない それでいい

無念にも練習機で出撃した三村弘上飛曹

 一言も彼女の情けに対する礼も云わなかったことを私は悔やんだが、純朴な農村の風紀はそれも許さなかった。

 養成所の試験からのかえり高梁で偶然にも会い一寸話したが、私の自惚れからではなく彼女がよろこんだことを、その場を見た人は実証するだろう。そして彼女、克子さんとは私は永遠に別れた。お互いに清いその誠を持して。

 明日は又、戦友に彼女のことを話すであろう。あるいは私のことをもう忘れているかも知れない。

 それでいい。私はそれでいいと思う。

 ただ彼女から受けた好意を胸に敵艦に散り咲きたいと思うのである。女々しかったかもしれない。神はそれを許して下さるだろう。

            隊外宿舎より

 五月十七日 晴

 午前八時前後、ロッキードにより奇襲され、負傷者若干を出す。交替にてかへる。やはり官舎が一番よい。避退の鐘がひっきりなしに驚す。午後、太田中尉来られ、虎尾轉進確定を告げらる。明朝〇六〇〇発進の予定。

 

 五月十八日 曇

 〇四〇〇起床

 〇五〇〇官舎発

 〇六〇〇新竹出発、離陸して油漏洩のため引き返す。

 一七〇〇頃再出発、異常なく虎尾着

 九三中練の訓練を猛烈にやっている。初めての飛行機であり、早く馴れねばならない。

 五月十九日 晴

 午前中整理

 午後四時三〇分より操訓

 一分隊那覇周辺出撃命下る。龍虎隊初の出撃、出発は明朝〇五〇〇、別盃

 五月二十日 曇

 午前甲板整理

 午後一六三〇飛行訓練、雨のため取り止め

 五月二十一日曇

 午後より飛行訓練開始されたが、一寸頭が痛くマラリアの様だったので休んだ。指揮所内で休んでいたら大体良くなったが、まだ底の方が痛い。

 五月二十二日 雨/曇

 梅雨期に入ったものか天候不順となる。出来るかと心配して互乗もどんぴしゃり出来、何のことはない。

母に宛てた遺書

 

 五月二十三日 雨

 熱が出て休む。マラリアではないかと心配する。今迄かってない苦しさだった。身動きする元気もない程疲れていた。

 五月二十四日 雨

 昨日の熱も大分薄らいで今日は大変気分が良い。初めて外出する。

我となりて こりゃーたまらん

 

 五月二十五日 雨 

 第二次出撃の命下る。士気旺なり。夜宴会あり。粛として春雨激しい。出撃員の句に曰く。

 ――今日までは 人の事だと思ひしに 我となりて こりゃーたまらん

 五月二十六日 雨

 雨々々、沛然として降り。続ける雨に梅雨とは云え訓練も出来ない。蚕豆を軒下で剥いだ頃のことを思い出す。

 

 五月二十七日 スコール

 海軍記念日、慰問演芸あり。今日も訓練できず。

 五月二十八日 晴

 ここに来てからは午前中は何時も寝るばかりで、午後になって夜間飛行だ、又久しぶりに乗ったが、間違いもなく終って嬉しく思う。

 五月二十九日 黎明飛行

 六月一日 晴 

 黎明飛行なりしが、敵機の空襲早く充分に出来ず夜間飛行に替えられる。逼迫した沖縄戦場は如何になるか。

 六月三日 晴 

 特攻隊第五小隊に編入さる。いよいよ戦地に向かふ日も近くなった。

 六月五日 

 年二十一ともなれば愛もあり恋もある。然し、それらはすべて浮世の夢なのだ。

 私にとって夢としなければならない。

 六月九日

 最初から最後まで乗っているのもきつい。夜間飛行は命懸けだ。

 ここで日記は途切れた。出撃を控え、生への執着と死の覚悟の間で揺れる。故郷の母へ呼びかけ、淡いながらも心を通じたはずの女性に思いも告げられない意気地なしの己を納得させるように「私にとって夢としなければならない」と締めくくる。

九三中練で死ぬとは思いもよらず

 福山の航空機乗員養成所から約二年間、操縦桿を握ってきた三上上飛曹は特攻機がよもや旧式の赤トンボとは考えてもない。日記でも「九三中練で死ぬとは思いもよらず」「九三中練とはちょっと情けないが、我慢して頑張ろう、死に場所」と意気消沈しながらも自らを鼓舞する姿が目に浮かぶ。

 昭和二十年四月六日から始まった米軍の沖縄進攻に対する特攻作戦「菊水作戦」も六月二十二日発令の第十次で終結している。その後、台湾の基地から、しかもこんな練習機で戦えというのか、という抗議の意味もあったかもしれない。しかし、そこは生粋の飛行機乗りである。虎尾基地転進後、二百五十キロ爆弾を搭載した赤トンボでの夜間飛行という前例もない最後の任務をいかに全うするかに注力し、夜間飛行訓練後の感想を「間違いもなく終って嬉しく思う」と綴った。

宮古島にある慰霊碑 実家宛の遺書は同期が投函した

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