沖縄戦終結後　赤トンボで特攻　宮古島　作家の古川薫に匿名の遺書　川平誠一飛曹　　第三龍虎隊④

◇海軍一飛曹　川平誠　昭和二十年七月二十九日、沖縄・宮古島を出撃し、沖縄周辺にて戦死　静岡　甲飛十二期　第三龍虎隊　二十歳

遺書　貴方が誠心整備された栄光の赤トンボを操縦して行きます

　取り急ぎ一筆します。自分は今、台湾のある基地におります。間もなく九三中練で特攻出撃します。なつかしい赤トンボでの出撃とは思いもよらぬことでした。羅針儀下の貴方の一文を発見し、最後のお別れを告げたくなりました。貴方が誠心整備された栄光の赤トンボを操縦して行きます。

　かなわぬまでもやれるだけのことはやってまいります。これは町の人にたのんで投函してもらった違法の手紙なので匿名にします。読後、焼き捨てて下さい。自分も消えます。貴方の未来に祝福を。その未来のなかに俺の時間も少しばかり入れてください。

　昭和二十年七月二十三日　Ｍ・Ｋ

　羽田日立航空機羽田工場気付、古川薫様

　三村上隊長率いる第三龍虎隊に加わった川平誠一飛曹は出撃の五日前に鉛筆で便箋二枚に書かれた遺書を送った。宛先は「東京市蒲田区羽田日立航空機羽田工場気付、古川薫様」。後に山口新聞記者を経て作家となる古川氏は手紙を受け取った時は二十歳で兵庫県篠山の陸軍第三十一航空通信連隊で通信兵となっていたが、昭和十九年まで羽田で赤トンボの修理や製造に携わっていた。

　羽田工場で最後に整備した赤トンボの羅針盤下に自分の名ともに、「武運長久ヲ祈リツツ本機ヲ誠心整備ス」の文字を刻んだ。よもやこの赤トンボが特攻機に採用されるなどあるはずもなく、「何かを残したいという、ほんのいたずら心だった」と語っている。

　出撃を目前に控え、川平一飛曹は特攻機に刻まれた整備士に手紙を出す。どこの誰でも構わない、どういう形でもいい、練習機の赤トンボで戦死する自分が生きていた証を残そうとした。最期の手紙を託された古川氏は「Ｍ・Ｋ」が「川平誠海軍一飛曹」であると判明したのは戦後五十年以上経ってからのことだった。赤トンボ特攻の三上弘上飛曹と川平誠一飛曹と自らの戦争体験を基にした小説「君死に給ふことなかれ」（幻冬舎）を出版した。

　特攻機として赤トンボ三十一機が配備された台湾の虎尾基地に転進した三上弘上飛曹と川平誠一飛曹ら八名の第三龍虎隊は出撃の五日前、沖縄特攻を命じられる。すでに第一、第二龍虎隊が出撃しているが、宮古島や石垣島での夜間着陸に失敗し、作戦中止となったため、全員が生還している。下令した第二十九航空戦隊司令官の藤松達次大佐も成功するとは考えていなかったに違いない。

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